ホーキング (Stephen Hawking, 1942-) は「車椅子の天才物理学者」として有名。ケンブリッジ大学大学院に進学したころ筋萎縮性側索硬化症 (ALS: amyotrophic lateral sclerosis) を発病し、病状の進行と共に体が動かせなくなっていっている。専門は理論系の宇宙論であり、特に量子宇宙論らしい。特に一般相対性理論の重力理論と、場の量子論の統合、即ち相対論と量子力学の統合がテーマになっているようだ。
個人的な感想では、ホーキングの本はかなり難しい。縦書き啓蒙書のなかでは群を抜いて難しく、こんなに売れるはずの本ではない。専門誌の記事並だと思う。専門誌の記事でも、当該領域を専門としている以外の、隣接分野の研究者向けに、冒頭で概要をまとめてあるものも多いから益々似ている。それでもホーキングは通読すれば抜群に面白い。だから売れるのだろう。一冊通読するのに週末を一回つぶしたとして、半年くらい掛けて読み込むと更に面白いだろう。
スティーブン・ホーキング著、佐藤勝彦訳、アーティストハウス
2001年12月初版発行 ¥2500-
ISBN: 4-04-898070-X
原著:THE UNIVERSE IN A NUTSSHELL, 2001
前著「ホーキング、宇宙を語る」 (A BRIEF HISTORY OF TIME, 1988、日本語訳は1995、林一訳、早川書房、ハヤワ文庫)の続編。邦題が不適切で、別に未来を語っているわけではない。前著同様、最初に相対論と量子論を概観して宇宙論の入り口まで繋げ、ブラックホール、時間論など現在の研究領域を章を分けて紹介している。冒頭の二章を呼んだら、残りは興味のあるところから読めば宜しい。
前著を踏まえた続きとか、改訂増補ということではなく、同じ趣旨で全く別の本を書いたということらしい。
この本には全てのページにカラー図版が挿入されている。前著では図が全く無かった。そのため、ビジュアル版と称して図版の追加が行われたものもあるそうだ。一般に、理系書籍で図版と数式がないと理解は困難を極める。その点、本書は数式を排除してカラフルな CG で概念をヴィジュアル化しているため、理解するのに無駄な労力を払う必要が無い。
それにしても、本書は(前著も)一般相対性理論と量子力学の知識を前提としている。丁寧に解説してくれているけれども、あくまでも本論の為の準備としての丁寧さだ。これを理解するのに専門教育に1年間はかけるのだし、啓蒙書でも一冊は費やすはずだ。全く新たに読み始めるには、本書は辛いのではないかと思う。
前著を始めて読んだのは高校生の頃だった。当時宇宙論に興味を持っていて、通俗的な関連書籍を読み漁っていたが、ホーキングの「宇宙を語る」は難しかった。それでもニュートン力学批判などは、ナカナカ辛辣で面白かった。しかし、大学で初等物理学を一通り理解しても、畑違いの素粒子論、宇宙論は数式レベルの理解を超えられなかった。
しかし、本書は宇宙論の面白い部分をエッセンシャルに伝えてくれる。前著で撃沈した好事家達にリベンジのチャンスを与えてくれていると云ってもいい。いざ読まん。
Jan./13th/2002
スティーブン・ホーキング、ロジャー・ペンローズ著、林一訳、早川書房
1997年4月初版発行 ¥1600-
ISBN: 4-15-208076-0
原著:THE NATURE OF SPACE AND TIME, 1996
「皇帝の新しい心」(みすず書房、1994)で有名な R. ペンローズ (Roger Penrose) と S.W. ホーキング (Stephen R. Hawking) の公開討論会の講義録。ペンローズはホーキングとの共同研究もあり、その博士論文を審査した先輩でもあるそうだ。
本書は、量子論と相対論の不一致、特に一般相対論が主張する重力理論と場の量子論の不一致とその解釈を巡って議論が戦わされる。第一章から第六章まで交互に講義し、最後の章で討論している。
おなじみのアナロジーを用い、最小限の数式と図版が登場し、章を追うごとに高度なツールが説明されるので、初等的な知識があれば分かりやすい。その反面、のっけから複雑な内容をあっさり説明していることもあり、全くの初学者にはとっつきにくいだろう。但し、概念的なことを知っている好事家ならば、地の文だけでも面白いはず。
この意味で、本書を読む前に「ホーキング、未来を語る」(アーティストハウス、2001)などを通読しておくことを勧める。その方が面白いはずだから。
Jan./13th/2002